事業

 

三城俊一

 

 

 

 生涯にわたる壮大な研究を完成させた老博士が演壇に上がった。盛大な拍手が沸き起こり、カメラのフラッシュがまぶしく光った。

 

 博士は語りだした。

 

「皆様、私のためにお集まりいただき誠にありがとうございます。今回の受賞はひとえに皆様のご協力のおかげであります。

 

 さて、今回の受賞理由となった私の研究事業について説明させていただきます。………」

 

 

 

 かつて、我々人類は彼らに対し、大きな過ちを犯しました。我々と共存を図ろうとしていた彼らを迫害したのです。もとは、彼らが好む環境をわざわざ作り上げてきた我々に責任があることを忘れてしまい、愚かしい大虐殺が行われました。しかし、どれだけ仲間が殺されようと、彼らは平気でした。強靭な生命力と繁殖力を持っていたからです。

 

 我々は続いて、毒をもって彼らの息の根を止めることを考えました。しかし、それも無駄でした。彼らは無限に繁殖していくのです。

 

 しかし、我々は躍起になっていました。

 

 彼らの体に数匹ずつ放射線を浴びせて遺伝子を破壊し、生殖能力をなくしてしまおうとしたのです。はじめのうちはもちろん効果はありませんでした。しかし、数年、数十年と続けていくうちに、わずかではありますが、彼らに減少の兆しが見えてきたのです。

 

 我々はほとんどヒステリックなまでに、その恐ろしい迫害を世界中で行いました。ドードー、リョコウバト、ステラーカイギュウ……我々が多くの動物たちを葬ったように、彼らも少しずつ、しかし確実に追い込まれていったのです。

 

 我々がその行為の愚かしさに気付いた時、生殖能力を数万分の一にされた彼らは、絶滅へ秒読み段階にありました。―――有史以来、何百、何千となく繰り返されてきた教訓を、またも生かせずに終わってしまったと誰もが思いました。

 

 

 

「………私は幼いころ、彼らの現状を知って大きな衝撃を受けました。そして、何とかして彼らを救いたい、今度こそ人類の愚かしい行為を食い止めたいと思うようになったのです。

 

 以来、私は仲間とともに数十年にわたり研究に没頭しました。何十度、何百度という試行錯誤を繰り返した末、私はかろうじて生かされていたつがいの遺伝子を正常なものに修復することに成功したのです。

 

 さて皆さん、そうした生まれた彼らの子供たちをここに連れてまいりました。どうぞご覧下さい」

 

 博士は助手に持ってこさせた水槽を人々の目の前に置いた。同時にどよめきの声が上がった。

 

「すばらしい……」

 

「なんて可愛らしいの……」

 

 感嘆の声に包まれながら、博士は目を細め、絶滅の淵からよみがえった奇跡の虫たち―――periplaneta fuliginous、和名クロゴキブリ―――をいつまでも愛おしそうに眺めていた。